第13章 呆れるほどおめでたい世界
巨人を一人で倒したことをペトラに褒めてもらい、エルドとグンタにも自慢し、達成感で胸をいっぱいにしながらアリアはグリュックの鼻筋を撫でていた。
「もちろんお前も頑張ったよ」
グリュックがきちんと指示を聞いてくれたおかげで巨人に追いつかれることなく走ることができたのだ。
彼は「当たり前だ」と言いたげに鼻を鳴らした。帰ったら美味しいご飯を用意してやろう。
「日光遮断用の布を持って来い!」
まだ少し浮かれた空気の中、ハンジの声が響いた。
それは鞭のようにしなやかで鋭さがあった。
ハッと全員が背筋を正す。
「心から喜ぶのは壁内に帰ってからだ。今はこの子を運ぶことに最善を尽くそう」
ハンジの指示により、巨大な布が巨人に被された。しばらく日光を遮っておけばやがて動かなくなるだろう。それから荷馬車に乗せる手筈だった。
巨人を壁内に入れることに貴族連中が猛反対をした、とエルヴィンが困ったように言っていたのを思い出す。
ただ壁の真ん中で豪華な飯を食らい、酒を飲み、巨人の脅威に怯えることなくのうのうと暮らしているだけの連中が。
アリアは無意識のうちに口をムッと尖らせていた。
以前行った、貴族とのパーティーのせいで彼らには嫌な思い出しかない。
「アリア、俺たちは一旦補給地点まで戻るぞ」
肩に手を乗せられてアリアは後ろを見る。
「エルヴィンと合流し、ハンジ班が巨人を荷馬車に積み込むまで待機だ」
「了解です、兵長」
「……平気か?」
アリアの浮かない表情に気づき、リヴァイが首を傾けた。
「問題ありません。ただ少し……嫌なことを思い出してしまって」
壁という檻に囲まれ、脳のない豚のように飯を食う。
想像しただけで鳥肌が立った。
いつかのエレンが言っていたっけ。
──あんなの、ただの家畜じゃないか
どういう話の流れでそう言ったのかは覚えていない。ただ、そのときの、怒りと憎しみの入り混じった彼の瞳はハッキリと覚えていた。
何よりアリアはその言葉に深く共感したのだ。
これ以上ないほど深く。