第13章 呆れるほどおめでたい世界
「行くよ、グリュック」
腹を蹴り、走り出す。巨人の前に飛び出した。
その瞬間、その奥にいたもう1体の巨人と目が合った。
「なっ……!?」
考えている暇はなかった。
「走れ!!」
グリュックに叫ぶと同時にアンカーを近くの木に刺し、飛び上がった。グリュックは指示通りに前へ走り続け、アリアは2体の巨人を見下ろす空にいた。
人間を見失い、動きを止めた巨人のうなじに狙いを定める。ガスを蒸して体を回転させながらブレードを振るった。肉を削ぐ。たしかな感触がある。顔に血飛沫がかかった。
「グリュック!」
巨人は絶命し、地面に倒れ込んだ。しかしアリアが勝利に喜ぶ時間はない。捕獲目標の大きな手がアリアを掴もうとすぐそばにあった。熱気が迫る。
アリアはすぐさまアンカーを巨人の死体から引き抜き、グリュックの前方に飛ばした。ガスを最大限蒸す。巨人の指先がアリアのマントをかすった。
地面を滑る。
あとわずかのところでアリアは巨人から逃れることに成功した。
手を伸ばしてグリュックにしがみつく。なんとか鞍に座り直すと上体を低くした。背後では巨人が走る音がした。二足歩行のくせに信じられないスピードだ。
「走れ、走れ!」
グリュックは全速力で駆ける。砂埃が撒き上がり、アリアの目に沁みた。それでも前を見据え続けた。振り落とされないように必死に手綱を握る。
「目標、接近中!!」
ニファの叫ぶ声が聞こえた。
気づくとアリアは開けた場所に出ていた。巨人捕獲装置が設置してある場所だった。
「撃てぇぇ!!!!」
刹那、雷が轟くような凄まじい音がした。
振り返る。ブレードを抜いたリヴァイが宙を舞っていて、片膝をついた巨人の体に何本ものワイヤーが刺さっていた。
「もう一発だ!」
ハンジが言う。
それに合わせて再び轟音が響く。
完全に体を固定されてしまった巨人は動こうにも動けないようだった。少しでも身動きするとワイヤーが軋み、さらに深く突き刺さるのだ。
アリアは息を弾ませ、グリュックの足をゆるめた。