第13章 呆れるほどおめでたい世界
第四分隊が捕獲装置の準備へ行く。しばらくして、完了の合図である緑の信煙弾が上がった。
「行こうか」
「はい」
捕獲に適したサイズの巨人を見つけるため、アリアとモブリットは馬を進めた。
巨人を見つける場所は立体機動のしやすい森の中かつ、装置からそれほど離れていない場所が好ましい。
地図を広げて進んでいく。
心臓がかたい音を立てていた。
手綱を握った手のひらに汗が滲む。
「……緊張しますね」
ぽつりと呟く。
もし巨人の捕獲が成功したら人類の勝利への大きな一歩になるだろう。その作戦に参加していると思うと腹の底が震えた。
「きっと上手くいく。大丈夫だ」
そんなアリアを励ますように、モブリットが力強い声で言った。彼の顔に緊張も不安も見られない。そこには自信があった。
「ハンジ分隊長の考えた作戦なんだから」
アリアは息を飲み、そしてゆっくりと吐き出した。
「そうですよね」
モブリットはハンジを心の底から信頼している。モブリットだけじゃない。きっと、第四分隊全員も。この作戦を許可したエルヴィンも。そしてリヴァイも。
ハンジを信じているからこそ今、ここにいる。
「わたしも、信じよう」
ハンジを信じ、自分を信じよう。
それが一番大事なことのはずだから。
「アリア」
そのとき、モブリットが鋭い声を出した。
手綱を引いて馬の足を止める。
「あそこの巨人が見えるか」
モブリットの指さした先に、1体の巨人が歩いていた。2、3メートルほどだろうか。小柄で、たしかに理想的な巨人だった。
周りを見渡し、ほかに巨人がいないことを確認する。
「目標をあの巨人にする」
「了解」
モブリットは捕獲対象を見つけたことを知らせるために信煙弾を打ち上げた。
「じゃあ、アリア。あとは頼んだ」
「はい」
「なにかあったら作戦のことは気にせず、即座に巨人を殺しても構わない。だれも君を責めはしないはずだ」
「……ありがとうございます」
アリアが頷くと、モブリットはアリアの背中を軽く叩いて背を向けた。装置のほうへ駆けて行く。
(……よし)
あとはアリア次第だ。