第13章 呆れるほどおめでたい世界
撫でられた頬に手を当て、息を吐く。
どうしてあの人はいつも、わたしが欲しい言葉をくれるのだろうか。
「ねぇ、グリュック。不思議だよね」
同意を求めてグリュックに話しかけるが、当然返事はない。そんなことよりも早く準備をしろ、とアリアの背中を鼻でつついた。
手綱をつけ、鞍を結ぶ。鐙(あぶみ)に足をかけ、ひと息に乗った。早朝の風が吹き、アリアの髪を揺らした。
「今日もよろしく」
グリュックの首を叩きながら言う。
今日は重要な仕事が待っているのだ。グリュックには頑張ってもらわなければいけない。
「アリアさん! おはようございます!」
そのとき、遠くからアリアを呼ぶ声がした。
声の方を見ると、ペトラとオルオが駆けて来ていた。
「おはよう、ペトラ、オルオ」
「今日はよろしくお願いします!」
「頑張ってください!」
巨人捕獲見学にワクワクしているのか、二人の目はきらきらと輝いていた。早朝なのに元気だ。
アリアは笑って頷いた。
「ありがとう。二人とも、くれぐれも怪我しないようにね。安全第一だよ」
安全のために離れたところでの見学になると伝えていたが、相手にするのは巨人だ。なにが起こるかわからない。
調査兵団の兵士である以上、不測の事態には自分の力で対処しなければいけない。いつだって、だれかが助けてくれるわけではないのだから。
アリアの言葉に、二人は真剣な表情で頷いた。
「はい。心得ています」
「アリアさんも、どうかお気をつけて」
「アリア!」
モブリットの呼ぶ声にアリアは顔を上げた。
作戦がもうすぐ始まる。