第13章 呆れるほどおめでたい世界
翌朝、アリアは天幕の中で手鏡を見ていた。
目元に触れる。昨日大泣きしてしまったから目が腫れている。リヴァイにも情けない姿を見せてしまった。
「アリア、行くよ」
同じ天幕のニファに声をかけられ、アリアは立ち上がった。
腫れた目元は冷やした方がいいが、そんな都合のいいものが壁外にあるわけがない。自然に腫れが引くのを待つしかないだろう。
天幕を出て大きく伸びをする。
今日は壁外調査最終日であり、巨人捕獲作戦当日。何事もなく成功しますように、と空に祈りながらアリアは馬が繋がれているほうへ向かった。
「おはようございます、リヴァイ兵長」
グリュックの隣に繋がれていたのはリヴァイの馬だった。ちょうど準備をしていたらしいリヴァイに声をかける。
「おはよう」
言いながらアリアの顔を見たリヴァイは、なんとも言えない表情をした。
「あんまり見ないでください」
言われずともリヴァイが言いたいことはわかる。
サッと目元を手で隠した。
「あのあと眠れたか」
「はい。おかげさまでぐっすり眠れました」
グリュックに近づいて首を撫でる。彼は嬉しそうにアリアのマントを噛んだ。
「昨夜は本当にご迷惑をおかけしました……」
結局、アリアの涙が止まり、落ち着くまでリヴァイはそばにいてくれた。面倒な女の相手をさせてしまったという罪悪感がちくちくとアリアの心を刺す。
「いや、気にしてない」
「そう、ですか……?」
「あぁ。……むしろ」
「むしろ?」
リヴァイは一瞬言葉を濁し、それから軽やかに自分の馬に飛び乗った。
「お前の本心が聞けて俺は嬉しかった」
「へ、」
いろんな本心をぶちまけた気がする。だれにも言えない、でも、自分で抱えるにはしんどすぎる本心を。
リヴァイはアリアの頬に触れると、馬を操り行ってしまった。
その後ろ姿を眺めながらアリアはグリュックにもたれかかった。
「ああいうところ、ずるいよねぇ……」