第13章 呆れるほどおめでたい世界
アリアは歯を食いしばり、必死に涙を流すまいとした。
「わたし、もう、どうすればいいのかわからない」
だが涙は溢れ、まるで幼子のように顔をゆがめて泣いた。食いしばった歯の隙間から嗚咽が漏れる。
リヴァイはなにも言わずにアリアを抱き寄せた。
「……アリア」
大きな手がアリアの背中を優しくさする。
息を吸う度に体が震え、喉の奥で、か細い音をたてた。
「俺は……こういうときになにを言ってやればいいのかわからない。きっと俺がなにを言っても、それはただの他人の言葉になる。だが、アリア」
アリアはリヴァイの背中に手を回し、シャツをきつく握りしめた。肩口に顔をうずめ、リヴァイの声を聞く。
「お前が望むことなら、それが正しいことなんだろう。だれかの言葉の、だれかの夢だとしても」
低く落ち着いた声はアリアの心を穏やかにしてくれる。息を整え、思考する力をくれる。
目を閉じてアリアは呼吸を繰り返した。
「ゆっくりでいい」
あの湖のときと同じだ。
リヴァイはいつだって、アリアの想いを尊重してくれる。
「きっといつか、楽になれる日がくる。降り続ける雨はないだろ。雨はいつか止む。だからそれまで耐えるんだ」
「耐、える」
「あぁ。いつだって、俺が隣にいる」
独りではない。
そう言ってくれているようだった。
アリアは脱力し、その体に身を預けた。
「隣に、いてくれる……」
「ずっと」
楽になれる日はくるだろうか。雨上がりの空を眺めることは、できるのだろうか。あぁ……わからない。未来などわかるはずがない。
それでも、もう少しだけ頑張ってみよう。そう思えた。
アリアは微笑んだ。心に強い芯ができた気がした。
彼が隣にいてくれる。それだけで、アリアはきっとなんでもできる。どんなことにだって耐えられる。
だから、
「愛してます、リヴァイさん」
なにがあってもこの人だけは失いたくない。