第13章 呆れるほどおめでたい世界
「どうした」
それはリヴァイの声だった。
心配そうにアリアの顔を覗き込んでいる。アッシュグレーの瞳にアリアが映っていた。
「あ、いえ、なんでも……ありません」
また考え込んでしまった。
考えても仕方のないことを考えてしまう。
だって答えは決まっている。
アリアの願いはただ一つ。
アルミンに海を見せる。
それだけなのに。
「……あの、リヴァイさん」
それだけでよかったのに。
恐る恐る名前を呼ぶ。どうした? とリヴァイは目で問いかける。
優しい瞳だった。アリアにだけ見せてくれる瞳なのだ。
「わたし……」
今から自分が何を言おうとしているのかよくわからなかった。深く考えてはいけないと思った。そうしてしまえば何も言えなくなってしまうから。
「わたし、あなたの隣にいたいんです」
やがてこぼれたのはささやかな願いだった。
「ずっとずっと、あなたと共に生きていたい」
調査兵団に確かな未来はない。
それでも願わずにはいられなかった。
「わたしがそう望んでいるんです。誰かに言われたわけでも、誰かのためでもなく、わたし自身が」
止めようとしても言葉は止まらなかった。リヴァイを見つめ、心に浮かんだ言葉を必死に紡ぐ。
「弟のために調査兵団に入ったのに、それだけが希望だったのに、最近わたし……おかしいんです。揺らいでる。自分のために生きてみたいと思ってしまう。でもその度に、」
アリアの目にじわりと涙の膜が張った。ぎゅうっと手を握りしめ、声が震えた。
「その度に、父の死に様が、母の言葉が浮かぶんです」
父は指を1本1本切り落とされていった。なにも知らないと叫んでも、そんなはずはないだろうと怒鳴られて。耳を塞ぎたくなるような絶叫が辺りに響いていた。
無力なアリアはただ母にしがみつき、泣くことしかできなかった。
そして、母は外へ引きずられていった。
アリアにアルミンを託して。