第13章 呆れるほどおめでたい世界
そのとき、何かが視界の端にきらめいた。
顔を上げると夜空には無数の星が瞬いていた。
ちょうど新月だからか、周りに明かりはなく、吸い込まれそうな星空が広がっている。
「わぁっ」
思わず声を上げると、リヴァイも同じように空を見た。息を呑む音が聞こえる。
「流れ星も見えるかもしれませんね」
「願いを叶えてくれるとかいうやつか」
「3回お願い事を言うんですよ。そしたら叶うかもしれない、みたいな」
喉の奥でリヴァイは笑う。
「信じてませんね?」
「いや。ロマンがあっていいなと思っただけだ」
こうして夜空を見上げるのなんて久しぶりだった。
星を見て綺麗だなぁと思う心の余裕がなかったのかもしれない。
流れ星が流れてきたらなんてお願いをしよう。
「リヴァイさんは何をお願いしますか?」
アリアが聞くと、リヴァイはしばらく悩んだあと首を横に振った。
「人に言ったら叶うもんも叶わねぇだろ」
「えぇ〜〜」
あのリヴァイの願い、とても気になる。
だがこれ以上聞いても答えてくれないだろう。彼はそういう人だった。
大人しく諦め、流れ星を探す。
アリアのお願い事と言えば、やっぱりアルミンのことだ。
あの子が無事に調査兵団に入って、海を見に行けますように。
あの子が幸せでありますように。
あの子が──
(……本当に?)
本当にそれがわたしの望んでいることなの?
自分自身に問いかける。
その問いはここ最近アリアの頭に浮かんでは消えてを繰り返していた。
どうしてこんなことを疑問に思うようになってしまったのだろう。
アルミンに海を見せる。アルミンを守り通す。それが約束。母からの言葉。何があろうと揺らいではいけない部分なのに。
時々、それが重荷になる。
そう思ったとき、サッと血の気が引くような気がした。
母親の最期の願いを今、わたしは重荷だと思った。だいたい、両親を死に追いやったのはわたしなのに。わたしが気球に乗りたいなんて言わなければ。自由を望まなければ。ぜんぶ、わたしのせいなのに。
「アリア」
誰かの声に、アリアは物思いから覚めた。