第13章 呆れるほどおめでたい世界
二人はしばらく何も話さなかった。ただ焚き火を眺め、互いのぬくもりを感じ、思い思いの考えに耽っていた。
「こうしてると、不寝番のことを思い出します。覚えてますか?」
ふとアリアの脳裏に浮かんだのは2回目の壁外調査のことだった。
「あぁ。覚えてる」
雨が降っていて、それはアリアに親友が死んだ日のことを思い出させた。初めて見る、荷馬車に積まれた死体。あちらこちらから聞こえる痛みに呻く声。食事も喉を通らなかった。
「あのとき飲んだキャラメルの紅茶、すごく美味しかった」
「たしかに美味かったな」
「わざわざリヴァイさんが新しく持ってきてくれたんですよね」
「お前の顔色が悪かったからだ」
リヴァイがアリアを見る。繋がれていないもう片方の手がアリアの頬を撫でた。
「今にもぶっ倒れそうな顔だった」
「色々としんどかったんです」
わがままを言ってリヴァイと共に不寝番をしたとき、あのとき飲んだ紅茶とそばにいる彼のぬくもりだけがアリアの体を、心をあたためてくれた。
「ありがとうございます、リヴァイさん」
あのぬくもりにアリアは救われた。
もしあれがなかったら、アリアは今でも調査兵団を続けていただろうか。もっと言えば、生きていただろうか。
繋いだ手に力をこめる。
この人のために生きたいと思う。
この人の隣にいたいと願う。
アリアはリヴァイを心の底から愛していた。