第13章 呆れるほどおめでたい世界
焚き火の勢いが弱まり、ポットから紅茶がなくなったころ。
ニファが大きなあくびをした。
「明日も早いし、今日はそろそろお開きにしようか」
それを見つけたハンジが伸びをしながら言った。他の面々も同意するように頷き、空になったマグカップを持って立ち上がる。
「わたし、まだここにいますね」
だがアリアは立ち上がらなかった。
まだ焚き火は燃えているし、なんとなく眠る気にはなれなかった。
「ん、わかった」
「早めに寝なさい」
ハンジは穏やかな微笑みを浮かべ、エルヴィンが肩を優しく叩く。
「……なら、俺もここにいよう」
立ち上がりかけていたリヴァイはそのまま元の場所に座った。
「えっ、大丈夫なんですか?」
「あぁ」
「じゃあ二人とも、火の番よろしくね」
おやすみ、と口々に言い合いながらみんな自分の天幕へ戻っていく。
その後ろ姿を眺めながらアリアは立てた膝に顔を乗せた。
「わたしが残るから残ってくれたんですか?」
やがて人の気配がしなくなり、辺りは静かになる。アリアはちらりとリヴァイを見てからかうような声を出した。
「あぁ」
だがリヴァイはそのからかいをものともせず、至極当たり前のように頷いた。それだけで嬉しさが心の中に広がる。
アリアは「へへっ」と笑って照れを誤魔化した。
「壁外調査が始まってからろくに喋ってなかっただろ。だから残った」
「そうでしたっけ? 何かと喋ってたような……」
「兵士長といち兵士としての会話しかしてねぇ」
「……寂しかったですか?」
そっと問いかけると、リヴァイは一瞬アリアを見てから何も言わずにマグカップに口をつけた。中身は空なのに。
「嬉しいです」
ちょっとだけ近づいて、肩と肩をくっつける。
思い切って頭を乗せると少しだけ驚いたように、リヴァイの体がかたくなった。だがやがて力が抜けていく。
「珍しいな。お前の方からくっつくなんて」
「わたしも寂しかったんですよ」
「そうか」
「そうです」
リヴァイの手が伸びてきてアリアの手と重なった。指を絡め、優しく繋ぐ。