第13章 呆れるほどおめでたい世界
「エルドとグンタは不測の事態に備え、木の上に待機だ」
「はい」
「わかりました」
「ないとは思うが、巨人の大群が押し寄せて俺やアリア、ハンジが食われて作戦続行が困難になったときには巨人なんて構わずに逃げろ。自分の命が優先だ」
釘を刺すようにリヴァイが言う。
エルドとグンタは顔を見合わせた。
2人の気持ちはよくわかる。
巨人に食われている上官に背を向けて逃げ出すなんて、そんなことしたくないに決まっている。アリアも同じだ。もし自分がその立場だったらまだ戦いたいと思うだろう。
「勇気と無謀は別物だ。それを忘れるな」
低く、しかしよく響く声に、2人は神妙な面持ちで頷いた。
「よし。だいたいの作戦は今言った通りだ。なにか不都合が生じたときは臨機応変に対応してくれ」
明日のことを考え、張り詰める空気を破るようにハンジは手を叩いた。夜風が吹く。木々のざわめきが、ふくろうの鳴き声が戻ってくる。
「アリア、緊張してる?」
どこかからかうような声にアリアは笑って首を横に振った。
「緊張はあまり。でも不安が少しあります。もう巨人に潰してもらってもいい内臓はありませんし」
「…………」
「ふっ、たしかにな」
「え、今の笑っていいところだったの?」
「あ? 笑うところ以外になにがあるんだ」
「まじか」
「さ、さすがに笑えませんよ……」
「なんか……アリア、リヴァイに似てきたね。笑いどころのよくわからない冗談を言うところとか」
「あぁ、それは私も思っていた」
「えぇっ!? リヴァイ兵長のよくわかんないギャグと同じにしないでください!」
「おい」
「いてっ、」
心外だ! と怒るアリアの頭をリヴァイが軽く叩いた。
それを見てハンジが噴き出し、声を出して笑い始める。
「ぜったいわたしの冗談のほうがおもしろいのに……」
「俺もお前も同じくらいだろ」
「いつもどう反応すればいいかわからなかったんですけど、これからは笑いますね!」
「それでいいのか……?」