第13章 呆れるほどおめでたい世界
「モブリット、そいつの口にこれ突っ込んどけ。うるさくて仕方ねぇ」
リヴァイはエルドからもうひとつ焼き菓子を受け取るとモブリットに放り投げた。それを受け取ったモブリットは、興奮のまま喋り続けているせいで大きく開いたハンジの口に焼き菓子を入れた。
一瞬静かになる。咀嚼音が響き、ごくんと飲み込まれる。
「すっごい美味しいね、これ」
心底、と言いたげなハンジの声にエルドは笑った。
「あぁ、ごめんねみんな。はしゃぎすぎてたみたいだ」
さっきまでのハイテンションはどこへやら、落ち着きを取り戻したハンジは紅茶を飲むとその場に腰を下ろした。モブリットは掴まれてよれよれになった襟を正し、隣に座る。
最後にエルヴィンの咳払いによって、ようやく話し合いが行われようとしていた。
「では明日の最終確認を行う。いいか? ハンジ」
「あぁ。もちろん」
焚き火が爆ぜる。
メガネを押し上げ、ハンジは全員の顔をぐるりと見渡した。
「先日話した通りだが、この作戦では1体の巨人の捕獲を目標とする。明日の壁外調査からの帰還時に作戦を決行予定だ」
アリアは頷く。聞いていた話に変更はない。
「巨人捕獲装置はさっき設置してきたところだ。私たち第四分隊が装置の起動を行う。そして巨人の囮となり、指定位置までおびき寄せるのはアリア、君の役目だ」
「はい」
モブリットと共に捕獲に適した巨人を見つけ、アリアが囮となって駆ける。
囮ならば自分たちでもいいのでは、とエルドとグンタは言っていたがそれを否定したのはリヴァイだった。
アリアの馬、グリュックは兵団内のどの馬よりも速く走ることができる。そしてそれを乗りこなせるのは現状アリアしかおらず、ここを変えることはできない。
遠くで繋がれた馬たちの鼻を鳴らす音が聞こえた。
「そして無事に巨人が装置のところに来たら、その足の腱をリヴァイが切り取る」
「あぁ」
正確に腱を削り取る技術と、一瞬のタイミングも見逃すことのできない役目はリヴァイが適任だった。