第13章 呆れるほどおめでたい世界
(……いよいよ明日か)
目の前の焚き火を眺めながら、アリアはマグカップに入った紅茶をすすった。
壁外調査最終日前日の夜だった。
今回の壁外調査では人的損害はそれほど出ていない。予定通り巨人捕獲を行えるとエルヴィンが判断したのが夕方のこと。ハンジ班が巨人捕獲器を設置し、帰ってきたのがついさっきのことだった。
ハンジ班の5名とリヴァイ班の4名、そしてエルヴィンは明日のことについて最終調整をするために焚き火を囲んでいた。
ハンジは興奮して座る気にもなれないのか、さっきからずっと焚き火の周りを歩き回っている。
「気持ちはわかりますが、落ち着いてください。分隊長」
そんなハンジに声をかけたのはモブリットだ。
だがハンジはモブリットの肩に両手を置くと、彼をぶんぶんと揺すった。
「これが落ち着いていられるか! いよいよ明日なんだよ! 作戦が上手くいけば、いよいよ……!!」
「まぁまぁ、落ち着いて、分隊長」
「そのままだとモブリットがぶっ倒れますよ」
目を回してだんだん顔色が悪くなってきたモブリットを見かねて、ニファやアーベルたちが止めに入る。
巨人の捕獲はハンジの念願だった。それがようやく叶うのだ。こうなってしまうのも仕方がない。
「アリアさん、焼き菓子食べます? 実家から送られてきたんです」
もうひと口紅茶を飲もうとしたとき、隣のエルドが言った。
「えっ、いいの?」
「はい。よければリヴァイ兵長もいかがですか?」
「悪ぃな。貰おう」
「こいつの実家、パティシエなんですよ」
ばりばりと焼き菓子を頬張りながらグンタが言う。
「生憎、俺に菓子作りの才能はなかったようですが」
渡された焼き菓子は美しいきつね色をしていた。丸く成形されていて、ひと口かじると控えめな甘さが口いっぱいに広がった。
「これ、すごく美味しい!」
「あぁ、美味いな」
「両親に伝えたらきっと喜びます!」
「紅茶にもすごく合うよ〜!」
「わっ! なんか美味しそうなもの食べてる!!」
そのとき、ぐっと身を乗り出したのはニファだった。
ハンジを止めることは諦めたらしい。モブリットはまだハンジに振り回されていた。物理的に。
「私にもちょうだい!」
「もちろんですっ」