第12章 キャラメルの包み紙をポケットに入れる
母は言った。あなたがアルミンを守るのよ、と。
祖父もいたけれど、何かあったときにアルミンを守れるのはアリアしかいなかった。
だって、わたしは、姉さんだから。
「姉さん?」
姉は弟のために生きるものだから。
そのためにわたしは──
(やめろ)
目を閉じる。
(考えるな)
顔の形が変わるほど殴られた。
鼻の骨が折れて、溢れ出した血が少女を溺れさせた。
中身を売り払うから殺しはするな、と男は言った。
それ以外のことはしても構わない、とも。
少女のちいさな体はただ痙攣することしかできなかった。
まぶたを持ち上げる。アルミンが心配そうな顔でアリアを見ていた。
薄汚い天井を少女は見ていた。
下劣に笑う男たちの顔を、少女は見ていた。
おかしい。
少女が見たかったのはそんなものではなかった。
少女が見たかったのは、どこまでも広く晴れ渡った空だった。
気球に乗って風を浴び、自由を堪能するはずだった。
己(おの)が自由を阻む者は殺さなければならない。
どんな手を使ってでも。
「姉さん?」
「アルミン」
アリアはアルミンを抱き寄せた。
肩に顔をうずめ、強く抱きしめる。
「大好きだよ、アルミン」
気づいてはいけない。
「わたしの大事な子」
だってこの子は、わたしのたった一人の家族なんだから。
何があったってわたしが守らなきゃいけないんだから。