第12章 キャラメルの包み紙をポケットに入れる
「それで、えっと」
アルミンは真っ直ぐにアリアを見据えた。
透き通った青い瞳だ。純粋で、強い意志のこもった瞳。
アリアは瞬きをする。
暗く、澱んだ自分とは違う。
(……どうして、急にそんなこと)
それは突然自分の頭の中に浮かんできた言葉だった。
瞳の色が違うのは当たり前だ。アルミンの方が薄く、アリアの方が濃かったというだけ。それだけなのに、なぜ暗く、澱んだなんて。
「昨日の演説、すごく感動したよ」
アルミンの言葉にアリアは我に返る。下がりかけた口角をゆっくりと持ち上げた。
「ありがとう。でも恥ずかしいなぁ。自分でも何が言いたいのかよくわかんなくなっちゃったし」
「そんなことないよ! 同期のみんなもすごかったって言ってた。調査兵団に興味を持った人もいるんだ。姉さんは僕の自慢の姉さんだよ!」
屈託のない笑顔でアルミンは言う。
「ふふっ、ありがとう」
アリアもまた笑顔で返す。
「それでね、僕、」
言いづらそうに俯き、息を吐く。それから顔を上げ、アルミンは全ての覚悟が決まった目つきでアリアを見た。
「調査兵団に入ろうと思っているんだ」
「調査兵団に」
「うん。エレンはずっと前から調査兵団志望で、ミカサもエレンを追って入るだろう。だから、っていうわけじゃないけど、僕はね、姉さん」
アルミンはアリアの両手をすくった。
訓練を始めて、彼の手はすっかり荒れていた。柔らかく、傷ひとつない手にはタコができ、いくつもの擦り傷がついていた。
「姉さんの隣で海が見たいんだ」
その言葉はアリアの心を締めつける。
「ただ姉さんに連れて行ってもらうだけじゃない。僕自身も戦って、胸を張って姉さんの隣に立つんだ。そして二人で、海が見たい」
アリアは薄く口を開いた。
何かを言おうとして、しかしそれは細い息となって吐き出される。
彼女の記憶に蘇るのは、あの悪夢。