第12章 キャラメルの包み紙をポケットに入れる
翌朝、アリアとエルヴィンは荷物をまとめ、馬車に乗り込もうとしていた。早朝だということもあって辺りは静まり返っている。
あくびを噛み殺し、アリアはエルヴィンの後に続いて馬車の踏み台に足を乗せた。
「姉さん!」
そのとき、背後から大きな声が響いた。
アリアをこの名で呼ぶのは一人しかいない。
「アルミン」
振り返ると、アルミンが全力疾走をしてこちらに向かってきていた。
兵舎から走ってきたらしい。頬は真っ赤に染まり、わずらわしそうに汗を拭っている。寝癖が横についていた。
「姉さん、はぁっ、まにあった、」
アリアの元に辿り着いたアルミンは膝に手を置き、前屈みになって息を整える。大きく動く肩がだんだん静かになっていく。
「どうしたの?」
「教官にお願いして少しだけ抜け出してきたんだ」
最後に一度息を吐き出すと、アルミンは顔を上げた。
「見送りがしたくて」
アリアは馬車に乗っているエルヴィンを振り返った。アルミンの体がハッと強張る気配がする。
「時間はある。構わないよ」
エルヴィンの言葉にアリアは頷き、再びアルミンと向き直った。彼はまだ不安そうな顔をして、アリアとエルヴィンを見ていた。
「ほ、ほんとに大丈夫?」
「大丈夫。団長も構わないって言ってくれてるんだし」
「ありがとうございます、エルヴィン団長」
深く頭を下げたアルミンにエルヴィンは微笑むだけだった。