第12章 キャラメルの包み紙をポケットに入れる
エルヴィンは息を飲み、アリアの手に自分の手を重ねた。
そこでようやくアリアの瞳の中にエルヴィンの姿が映った。呆然としたように口を開けて、アリアは「エルヴィン、団長」と声を出す。
「俺も、同じだ」
「……え?」
「俺も君と同じように父を殺した。子どものころだった。俺の過ちによって父は死んでしまったんだ。父もまた、壁の外についてある考えを持っていた」
アリアの目が揺れ動く。
二人の間で何かが結ばれる。
「俺は、愚かな息子だった。何も考えず、教えられたことを喋ったばかりに、父は人知れず死んだ。遺体さえ帰ってこなかった」
「誰が、お父さんを殺したんですか」
「俺はそれを知っている」
アリアはエルヴィンの手を握りしめた。それは驚くほどの力だった。
彼女は答えを求めていた。ようやく訪れた手がかりを得ようと前のめりになる。
「教えてください。両親を手にかけたのも、同じ人かも知れない。彼らはわたしの両親の手足を切り落とし、わたしを地下街に売り飛ばしたんです」
「知って、どうする」
「殺すんです」
それはアリアの口から一切の躊躇いなく吐き出された。
「君にできるのか? そんなことが」
アリアの目の中に浮かぶ光は不穏な色を帯びていた。
以前、アリアがエルヴィンを殺そうと刃を抜いたときと同じ目だ。
「躊躇いはありません」
それは決して冗談ではなく、心の底から溢れた本音。
そのとき、ぐらりとアリアの頭がかしいだ。
咄嗟に手を伸ばして肩を支える。
「アリア?」
彼女の目は閉じられていた。薄く口が開き、規則的な寝息が聞こえてきていた。
「……寝た、のか」
酔いが完全に回ったのか。あるいは昼間の疲れが今きたのか。
エルヴィンは長い息を吐き、アリアの体を横抱きにした。ベッドに寝かせてテーブルの上を片づける。
部屋から出る直前、エルヴィンはもう一度アリアの顔を見た。
「おやすみ」
まだあどけない寝顔の少女は健やかに眠っている。
幸せそうに、しかしそこには苦しみがある。
その苦しさを、彼はよく知っている。
夢の中にいようとも、それから逃れることはできないのだ。