第12章 キャラメルの包み紙をポケットに入れる
壁のない世界へ行ってみたいと思った。
どんなものかをこの目で見て、目一杯、外の空気を吸い込むのだ。それができるのなら、アリアはなんでもすると決めた。
「……そんなわたしの言葉を聞いて、父さんは、じゃあアリアの誕生日にこれを飛ばそう。そう言った」
父さんは壁を越える気はなかったと思う。あるいは、ただ愛する娘への誕生日プレゼントのつもりだったのだ。空を飛んでみたいという可愛らしい願いを叶えようとしてくれた。
「でもそれが、いけなかった」
アリアの手が震える。
話が核心に近づいているのだとわかった。エルヴィンはわずかに身を乗り出し、アリアを見つめていた。
「わたしの誕生日、夜中だった、馬車に揺られて、あぁ、もしあのとき、あのとき目覚めなければ、そうすれば、きっと二人は気球を飛ばすことを諦めたはずだったのに」
アリアが目覚めないのなら仕方ない。
今夜はやめておこう。
そうして、何事もなかったように家に帰れたはずだった。祖父とアルミンが待つ我が家へ。
「わたしは、いや、わたしが、」
アリアは顔を上げた。血走った目がエルヴィンを捕らえた。
「殺した」
あの日、両親は愚かな娘によって殺されてしまったのだ。
彼女が自由を望んでしまったばかりに。