第12章 キャラメルの包み紙をポケットに入れる
アルコールは控えめにしようと思っていたのに気づけばグラスの中は空になっていた。美味しいチョコレートのせいで手の動くまま飲んでしまったらしい。
「その一杯だけにしておきなさい」
嗜めるように言って、エルヴィンはアリアからグラスを取った。
酔いの回った目でそれを追いかける。
頭の奥が鈍く疼き、まぶたが重たい。声を発しようとしても言葉が出てこなかった。自分の喋りたいことがまとまらない。これが酔っ払うということなのか。
「麓の喫茶店の、ケーキ」
ゆっくりと瞬きをしてアリアは言った。
アリアのために新しい水を持って来たエルヴィンは改めてソファに腰掛け、その言葉の続きを待った。アリアの手によく冷えた水の入ったグラスが握らされる。
「エルヴィン団長とハンジさんと食べようって言って、まだ、食べてませんでしたよね」
ソファに深く沈み込み、アリアはもにゃもにゃと唇を動かす。今、何を喋っているのか、彼女はわかっていない。ただ口が動くのに任せて頭に浮かんだことをそのまま話していた。
「そういえばそんな約束をしていたな」
「先生からあまいものも控えるようにって、言われてたのに」
箱の中に入った最後の一粒を口に放り込み、アリアは笑った。
「今日だけでたくさんたべちゃいました」
「ずいぶん酔っ払ってしまったな。そろそろ寝なさい。水をしっかり飲んで、」
「このまえ、リヴァイさんとすこし遠くの街にお出かけしたんです」
「……アリア」
「すごくすてきなティーカップが売ってて、つい、買っちゃって、せっかく持ち手があるんだからそれを使えばいいのにって言ったらリヴァイさん、ちっちゃいころにカップの取っ手が取れて割っちゃったことがあるんですって」
アリアの手の中にあるグラスが危険な揺れ方をする。アリアが好き勝手ぐるんぐるん動かすから、今にも中身が溢れてしまいそうだった。
慌ててグラスを回収した。
リヴァイはきっとアリアにだけ、自分自身のことを話しているのだろう。彼女に、知ってほしくて。