第12章 キャラメルの包み紙をポケットに入れる
背中をさすられながら咳払いをする。
これをエルヴィンはなんてことないような顔で飲んだのか。
「落ち着いたかな?」
「は、はい、すみません」
「水で薄めた方が良さそうだね。すまない、気が回らなかった」
「いえ……あの、わ、わざと、じゃないですよね?」
あのエルヴィンが、初めて酒を飲む相手にストレートを渡すだろうか。
念のために聞いてみると、彼はなにも言わずにチョコレートを頬張った。
「わざとだったんですか!?」
「ははっ」
「誤魔化さないでください!」
「ほら、これでも食べて」
むい、と口の中にチョコレートを放り込まれ、アリアは黙った。むしゃむしゃと食べる。甘くておいしい。焼けた喉が癒されていく。
「美味いか?」
「おいしいです」
「ふふっ、ならよかった」
エルヴィンは立ち上がり、アリアのグラスに少しの水を注いで持ってきた。濃厚な琥珀色は薄まり、匂いも穏やかなものになったような気がする。
「からかわないでください」
「からかったつもりはないよ。悪かったね」
そうは言いつつも、エルヴィンはいたずらが成功したかのような笑顔だった。絶対悪いと思っていない。
「ブランデーとチョコレートはよく合うんだ。今日は頑張ったんだからたくさん食べるといい」
チョコレートの入っていた箱ごとアリアのほうに押す。
見た目からして高級そうなチョコレートだ。押し込まれるがまま食べたが、もうちょっとちゃんと味わえばよかった。
「ありがとうございます」
手を伸ばしてひとつ取る。
チョコレートなんて滅多に食べられない代物だ。エルヴィンに同行してきてよかった。
今度は慎重にブランデーを口に含む。
さっきよりもずいぶんと飲みやすくなっていた。
しばらく2人はそれぞれの物思いに沈みながら酒を飲み、チョコレートを食べた。エルヴィンとふたりきりになって、初めて感じる気の抜けた沈黙だった。