第12章 キャラメルの包み紙をポケットに入れる
汗を流し、薄手のTシャツと膝丈のズボンを履く。髪をよく拭いて、アリアは部屋に戻った。
エルヴィンはソファに座りながら揺れる蝋燭をぼんやりと見ていた。
「窓、開けますね」
「あぁ、ありがとう」
夏の夜は蒸し暑い。窓に駆け寄り、ノブをひねって押し開ける。しばらくだれも開けていなかったのか、ぎゅぎゅ、と耳を塞ぎたくなるような音がした。
レースカーテンを引くと外から吹き込む風ではためく。これで少しはマシだろう。
「お待たせしました」
エルヴィンの向かい側に腰を下ろし、アリアはひと息つく。
やろうと思えば数分でシャワーを浴びられたというのに、さっきまでの自分は廊下でなにをやっていたんだろう……。本当に。
「さぁ、飲もうか」
子気味良い音を立ててエルヴィンは瓶のコルクを抜く。部屋の中にあったグラスに少しだけ注ぎ入れ、アリアに渡した。
「ありがとうございます」
両手でそれを受け取り、光にかざして見てみる。
琥珀色が美しく、とろりとしたそれはとても美味しそうに見えた。
「王都で流行りのブランデーだ。本当に良いものを土産に貰ってしまったよ。飲むのは初めてか?」
「はい。お酒自体飲むのが初めてです」
どんな味がするのか想像もつかない。
ハンネスたちが飲んでいるのをよく見ていたが、彼らはいつもビールを飲んでいた。色も匂いもぜんぜん違う。
「乾杯をしよう」
自分の分を注いだエルヴィンは、軽くグラスを上げた。アリアも真似して上げてみる。
「君の素晴らしい演説に」
「え、演説に! ありがとうございます!」
少しの気恥ずかしさと共に言う。エルヴィンは優しく微笑み、ブランデーをひと口飲んだ。
アリアも恐る恐る、本当にちょっとだけ舐めてみた。
喉が焼けるような感覚があった。思わず咳き込む。唇はヒリヒリと痛み、顔を思い切りしかめた。
「けほっ、な、ごほっ、」
「ほら、水を飲みなさい」
咳き込みすぎて言葉も出ない。そんなアリアにエルヴィンは水を渡した。それを受け取って一気に飲み干す。
少しだけ痛みがマシになった気がした。