第12章 キャラメルの包み紙をポケットに入れる
アリアは急いで立ち上がり気をつけをした。そしてさも「最初からここにいましたけどね??」というような表情でエルヴィンを見つめた。エルヴィンもまた、無言でアリアを見ていた。
堪えきれなくなったのはエルヴィンのほうだった。
口元に手を当てて俯く。その肩は小刻みに揺れていた。シャワーを浴びたのか、セットされていない髪もゆらゆら動く。アリアは真顔だった。
「……笑いすぎです」
「すまない、ふふっ、」
「エルヴィン団長!!」
「ははっ、だってまさか、床に寝転がってるなんて思わないだろう!」
「それはまぁそうなんですけど……!」
エルヴィンの白い肌が笑いすぎで赤く染まっていくのを見ながら、アリアは「も〜!」と声を出した。
尊敬する上官にこんな醜態を見せることになろうとは。
「それで、どうかされたんですか?」
なにか用があってアリアの部屋を訪れたのだろう。
そう思って聞くと、エルヴィンは口の端に笑いを残したまま頷いた。片手に持っていた瓶をかかげる。中には琥珀色の液体が入っていた。
「キース教官から土産だと貰ったんだ。良い酒だ。いっしょにどうかな?」
「お酒……でも、わたし医務室の先生からあんまり飲むなって言われてて」
「舐めるくらいならいいだろう?」
「うーーん……」
「美味いチョコもあるよ」
「どうぞお入りくださいっ!」
アリアの心が傾くのはあまりにも早かった。
おいしいチョコならしょうがない。うん。そのついでにお酒を飲んでしまっても? しょうがないよね。
エルヴィンを部屋に招き入れ、着たままだったジャケットを脱ぐ。そういえば帰ってきてからそのまま床に倒れたんだった。
「あの、エルヴィン団長」
石鹸の香りをさせ、すでにラフな格好に着替えているエルヴィンと、砂埃と汗にまみれたアリア。
いっしょに酒を飲むのはあまりにも不釣り合いだ。
「シャワーだけ浴びてきてもいいですか?」
エルヴィンはソファに腰掛け「もちろん」と言った。