第12章 キャラメルの包み紙をポケットに入れる
言い切った後、沈黙が流れた。
ハッと息を飲み、恐る恐るエルヴィンを振り返る。特別作戦班のことだけを話せばいいのに余計なことまで口走ってしまった。
だがエルヴィンはどこか満足そうに目を細めた。初めて見る表情だった。
「え、っと、い、以上です」
続く静寂に耐えきれずアリアは頭を下げて教壇から降りようとした。
まばらな拍手が聞こえてきたのはそのときだった。
俯いていた顔を上げる。
訓練兵たちは食い入るようにアリアを見て、拍手をしていた。己の中に湧き上がった感情をどう処理すればいいのかわからず、出てきたのが拍手のようだった。
その中でもひときわ大きく手を叩いていたのはアルミンたちだ。
溢れんばかりの笑顔でアリアを見ている。誇らしげな顔に、アリアは思わず破顔した。
よかった。本当に、よかった。彼らの心に響いたものがあったのだ。
安堵で途端に足が震え出す。
「素晴らしかったよ」
よろよろと教壇を降りるアリアの肩に手を置いてエルヴィンが囁いた。
かくして、アリアの初めての演説は成功を収めたのだった。
「お、終わったぁ〜〜〜」
その夜、宿についたアリアは自分の部屋に入るなりその場に崩れ落ちた。ここが廊下だろうと関係ない。ソファに辿り着くまでの気力など彼女にはなかった。
ドアの前でうつ伏せに倒れる。ひんやりとした床が気持ちいい。
もうこのまま眠ってしまいたかった。
エルヴィンの奢りで美味しいものも食べることができたし、あとはシャワーを浴びればすぐに眠れる。だが動けない。動けるはずがない。
「アリア」
そのとき、コンコンと軽いノックの音がしてドアが開いた。
「あ」
「おっ、と」
エルヴィンの一歩がアリアに落とされそうになった直前、なんとか踏みとどまり、彼は床に寝転ぶアリアを発見した。