第12章 キャラメルの包み紙をポケットに入れる
大講義室の内装もアリアが訓練兵のときから何ひとつとして変わっていなかった。強いて言うなら兵士の数が増えていることくらいだろうか。
まだ壁が壊されていなかった時代、進んで兵士になろうとする人間は多くはなかった。だが超大型巨人と鎧の巨人の襲撃以降、兵士を志願する者が増えた印象だ。
兵士たちの疲れの滲んだ顔を見渡してアルミンを見つける。エレンとミカサも横に座っていて、アリアを見つけるとパッと笑った。
手を振りたくなるのを我慢して、アリアはエルヴィンの後を追う。教壇の上に立つ彼の横で立ち止まった。
「調査兵団第13代団長、エルヴィン・スミスだ」
その一声は太く、よく響いた。
半分寝かけていた青年たちの目を覚まさせ、だらけていた空気を一瞬にして引き締める。アリアの背筋もピンと伸びていた。
「君たちも知ってはいると思うが、調査兵団は元来より──」
端的に、わかりやすくエルヴィンの話は続いていく。
調査兵団の役割、組織構成、今までの実績。そして何より、毎回の壁外調査によってどれだけの兵士が死んでいったか。
新たに自身が考案した長距離索敵陣形についても図を用いて解説を行った。これによってどれほど損害が軽減したか、どのような利点があり、それと同時にどのような弱点があるのか。
いつの間にかここにいる全員が、エルヴィンの話に聞き入っていた。メモを取る音も聞こえてくる。
アリアはちらりと彼の顔を盗み見た。
この後に話すのか……。
振り払ったと思った緊張が顔を出す。
いや、弱気になってはいけない。わたしはただ自分の経験を話せばいいのだから。
「続いて、2年前より新設された特別作戦班について彼女より説明を行ってもらう」
エルヴィンがアリアを見る。いけるか? と言うように眉を上げる。アリアは力強く頷いた。
教壇に立つ。
こちらを見つめるいくつもの目線を感じながら、アリアは息を吸った。
「特別作戦班所属、アリア・アルレルトです」