第12章 キャラメルの包み紙をポケットに入れる
元々何を考えているのかよくわからない人ではあった。
何を言ってもその微笑みと巧みな話術でかわされてしまう。これならまだリヴァイの方がずっと表情を読みやすい。
エルヴィンは少し驚いたような顔をしてからあの微笑みを浮かべた。目の奥が笑っていないのに惹き込まれてしまう微笑みだ。
「それです! それ!」
興奮気味に言うと、彼はパッと元の表情に戻った。アリアたち調査兵に向ける彼らしい表情。
「あまり考えたことはなかったが……そうだな、自分自身に蓋をするんだ」
「自分自身に」
「あぁ。全て。怒りも、喜びも、悲しみも、そして思考さえも。そして口角だけを上げる。そうすれば相手に感情を読み取られることもなくなるだろう。何より、」
講義室の中から拍手が響く。
「そのときだけは辛いことから逃げられる」
扉が開き、駐屯兵団の団長が疲れたような顔をして講義室から出てきた。
エルヴィンをアリアを見て軽く頭を下げる。
「さぁ、行こうか」
いとも簡単にエルヴィンは言ってのけたが、アリアにはとても難しいことのように感じた。
辛いことから逃げられる? ただ微笑むだけで? 彼はそうして耐えてきたのだろうか。なにか、とても辛いことから。
エルヴィンの背中を追いかけて、アリアは講義室へ足を踏み出した。