第12章 キャラメルの包み紙をポケットに入れる
駆けて来たのは、金髪をひとつにまとめた鷲鼻の少女と長身の青年だった。
2人とも避難所で会ったときは小さかったのにずいぶんと背が伸びたらしい。彼らはアリアの顔を見て、すぐに気づいたようだった。
「覚えてるか? ほら、」
「もちろん覚えてるよ。またお会いできて嬉しいです」
ライナーの言葉をさえぎり、長身の青年――ベルトルトが言う。礼儀正しく微笑み、頭を下げる。
一方、アニはなにも言わなかった。なにかを警戒するようにライナーとアリアの顔を見比べる。
「3人とも訓練兵になったんだね」
「はい。俺たちも巨人によって故郷を奪われました。だから、大切な故郷に帰るために訓練兵になったんです」
立派な心意気だ。前向きで健康的な目標だと言える。
ライナーは言葉に力を込めるためにグッと拳を握りしめていた。その両目には並々ならない覚悟の光がある。そんなライナーをベルトルトは見守り、アニは呆れたように息を吐き出した。
なんとなく、この3人の関係性のようなものが見えた気がする。
3人を率いるリーダーがライナーで、我関せずなのがアニ、そんな2人を見守るベルトルト、といったところだろうか。
仲間は大事だ。
彼らが離れ離れにならないことを祈るしかアリアにはできなかった。
「そうだ、3人とも手を出して」
アリアの言葉に3人は顔を見合わせ、しかし素直に右手を出した。その上にころんっとキャラメルを置く。
そばにいたエレンが「あっ、」と羨ましそうな声を出した。
「エレンたちにもあとであげるから」
ライナーとベルトルトは「ありがとうございます」と礼を言ってジャケットにしまう。アニはしばらくキャラメルを眺めていたが、やがて包み紙を開いて中身を口に放り込んだ。
「お、おい、アニ。さすがに今食べるのは……」
「キース教官に見つかったら頭突きだけじゃ済まされないよ」
「ちょうど食べたかったから。それにアタシ、キャラメル好きだし」
ありがとうございます。
アニはそう言って、キャラメルの包み紙をポケットに入れた。