第12章 キャラメルの包み紙をポケットに入れる
近づくにつれて声が大きくなる。対人訓練をしているのか、木造の銃同士がぶつかる音が響く。
兵団の幹部がやってくる日だからか、ずいぶんと真面目にやっているらしい。兵士たちは息を切らしながら互いに睨み合い、投げ飛ばし、のしかかっていた。
訓練兵たちは突然やって来たアリアを見て不思議そうな顔をする。そしてジャケットに刺繍された自由の翼に気づき、囁きが増す。
調査兵団だ。
今日来る幹部の人?
顔見たことある?
あ、おれ知ってる。特別作戦班のひとりだよ。
リヴァイ兵士長の?
「姉さん……?」
囁きの間から声が聞こえた。
ハッと声の主を見る。
ちょうど投げ飛ばされたところだったのか、地面に転がっていたアルミンがガバッと起き上がってこちらに駆け出した。
「姉さん!」
さすがに人の目がある手前抱きついてはこなかったが、その顔はキラキラと輝いていた。
「アリア!」
「アリア……!」
その声に気づいたエレンとミカサもパタパタと走ってきた。
「3人とも、久しぶり!」
小さい頃からこうして駆け寄ってくるのは変わらない。
それが嬉しくて、アリアは笑った。
「知り合いか? エレン」
「あぁ! アルミンの姉さんだよ」
エレンと対人訓練の相手をしていた青年が近寄ってくる。
短く刈られた金髪、がっしりとした体躯、爽やかな顔つき。アリアはその青年の顔を見たことがあった。
「あなた……」
「姉さん! なんでここにいるの?」
アルミンの声にアリアは口に出しかけていた言葉を飲み込む。
「調査兵団の仕事でね。ほら、説明会があるでしょ?」
「アリア、いつの間に幹部になったの?」
「うーん、幹部の代理みたいな感じかな。それよりミカサ、髪の毛切ったんだね。すごく似合ってる!」
「うん。エレンが切れって言うから」
「立体機動の邪魔になんだろ」
背が伸びて、大人びた顔つきになっても中身は変わっていないらしい。聞き慣れた会話のテンポにアリアは笑みを深めた。