第12章 キャラメルの包み紙をポケットに入れる
訓練兵団の兵舎はアリアの記憶の中とまったく変わっていなかった。まるでタイムスリップしたかのような感覚に思わず「おぉ……」と声を出す。
隣に立ったエルヴィンは迎えに出てきたキースと言葉を交わしていた。
「お久しぶりです、団長」
「今はもう団長ではない。が、本当に久しぶりな気がするな、エルヴィン」
だがキースだけがずいぶんと変わっていた。
顔のシワが増え、迫力がさらに増している。しかしもっと目を引く部分があった。
「特別作戦班所属、アリア・アルレルトです。本日はよろしくお願い致します」
あまり見つめすぎるのも失礼だと思い、目を逸らしたアリアはキースと握手をしながら名乗った。彼はこくりと頷く。
「ずいぶん立派になったものだ。貴様の活躍もよく耳にしている」
「あ、ありがとうございます! 過分な評価を頂いております」
もう彼の記憶の中にはいないと思っていたが、覚えてくれていたなんて。
驚きと共にかちこちと緊張で固まりながらなんとか言葉を返した。
「アリア。説明会が始まるまで弟に会ってくるといい。時間になれば呼びに行こう」
言いながら、エルヴィンはアリアの手からカバンを受け取った。
「い、いえ、荷物を団長に運んでもらうわけには」
「あまり時間はないぞ」
「うぐっ、」
そう言われてしまえば従うしかない。
アリアはエルヴィンとキースに深々と頭を下げ、訓練兵の掛け声が聞こえてくる方へ走り出した。