第12章 キャラメルの包み紙をポケットに入れる
馬車が揺れている。
「アリア、起きろ。そろそろつくぞ」
遠くから父の声がした。
夜中の移動はまだ幼い少女には耐えられなかった。
深く眠り込み、少女は目覚めない。
「アリア」
母が肩を揺らす。
「アリア、起きろ」
馬を操る父が振り返る。
少女は呻きながら目を開けた。
いつの間にか馬車は止まっていた。
窓の外には暗闇だけがあり、目的地についたのだとわかる。
もし、ここで少女が目覚めなければ。
「さぁ、降りるのよ」
もし、少女が馬車の中に留まっていたら。
「アリア」
なにか変わっていたのだろうか。
「……うん、いま、おきるよ、父さん」
エルヴィンが驚いたような表情でアリアを見下ろしていた。
瞬きをする。
アリアは瞬く間に覚醒した。わっ、と叫び、窓に張りついた頬を引き剥がす。口を開けて眠りこけていたのか、涎が垂れているのを慌てて拭った。
「す、すみません、」
アリアを起こそうとしていたらしいエルヴィンは、声を出して笑った。恥ずかしくてアリアの顔はどんどん赤くなっていく。
「夢を見ていたのかい?」
「はい……。両親の、夢を」
まだ寝起きでうまく働かない頭を動かしてもごもごと答える。
「ご両親は今、どこに?」
あぁ、と口の中で呟く。
アリアはエルヴィンを見上げた。
「ずいぶん前に殺されました」