第12章 キャラメルの包み紙をポケットに入れる
心の中に真っ直ぐな強い芯がある子だ。そう易々と根を上げたりはしないはずだが、あのキースにしごかれている弟の姿はあまり考えたくはない。
「無事にしてるといいんだけど……」
「弟のことか?」
「はい……い、いじめられてたりしたらどうしよう……」
エレンとミカサがそばにいるとはいえ、シガンシナに住んでいたときのようないじめがないとも限らない。
「あの子、すごく賢いからそれを妬まれて陰湿ないじめに遭っていたらと思うと……。もしそんな場面に遭遇してしまったらわたしはなにをしでかすかわからないです……!!」
兵士になって、リヴァイの元で戦うようになり、アリアは強くなった。大の男が相手でも勝てる自信があるほどに。
そんなアリアが最愛の弟をいじめている奴らに会ってしまったら。
アリアはぎゅっと拳を握りしめた。
「そのときは私が止めるから安心しなさい」
笑いをこらえるような声でエルヴィンは言う。
「ほんとですか? ぜひよろしくお願いします」
パッとアリアは表情を明るくしてエルヴィンに頭を下げた。
彼が止めに入ってくれるなら安心だ。滅多なことはないだろう。未来ある兵士を再起不能にはしたくない。
「君は本当に弟を愛しているんだな」
エルヴィンの言葉にアリアは顔を上げた。
愛している。
あの子を。
手を組んで膝の上に乗せる。
「あの子は、たったひとりの家族ですから」
何に代えても守らなければいけない、大切な存在。
アルミンを守るためなら自分の命だって惜しくない。
それは両親が死んだ日からアリアの心に刻み込まれた決意。
「あの子のためなら、わたしは……」
脳裏にリヴァイの姿がよぎった。
(……本当に、そうだろうか)
アリアは口を閉じ、ゆっくりとまぶたを下ろす。
急な眠気が彼女の体を包み込んだ。