第12章 キャラメルの包み紙をポケットに入れる
御者側に背を向けて座り、隣にカバンを置く。続いてエルヴィンが乗り込んでアリアと向かい合うようにして腰を下ろした。
小窓から外を覗く。それと同時に鞭の響く音がしてゆっくりと馬車が動き出した。相変わらず険しい顔をしているリヴァイに手を振ると、かすかにだが手を振り返してくれた。
みるみるうちにリヴァイの姿が遠くなり、やがて見えなくなってしまった。
「リヴァイとはうまくいっているようだね」
改めて椅子に座り直したアリアは、エルヴィンの言葉に頬をちょっと赤くした。
「ありがたいことです……」
なぜかうやうやしい返事になってしまったアリアにエルヴィンが笑う。
ここから訓練地までは数時間はかかる。
その間エルヴィンとふたりきりだ。3年ほどの付き合いだが、こうして向き合っているとまだ緊張してしまった。
そんなアリアに気づいているのか、エルヴィンは穏やかに微笑んだ。
「眠かったら寝てもいい。ついたら起こしてあげよう」
「いえ、そんな……」
この馬車の中で眠れるだろうか。というか上官に寝顔を見られるのは恥ずかしすぎる。
しばらくしてから沈黙が訪れた。エルヴィンは改めて今回の説明会に関する書類を読み込んでいて、アリアはそんな彼を視界の端に入れながら窓の外を見ていた。
景色が流れていく。もう少ししたら建物は少なくなり、自然ばかりになっていくのだろう。自分が訓練兵団にいたときを思い出す。辛い訓練ばかりだった。教官は怖いし、常に死と隣り合わせだった。よく五体満足で生き残ったものだ。
「そういえば」
ふと、声を出す。エルヴィンは顔を上げた。
「今の教官ってキース・シャーディス団長なんですよね」
「あぁ。そうだ。調査兵団団長を退いてからは訓練兵の育成に力を入れているらしい」
関わったのはわずかな期間だったが、それでも調査兵団団長らしい迫力があった。あの人が教官……。
(アルミン、大丈夫かなぁ……)