第12章 キャラメルの包み紙をポケットに入れる
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出発当日。
アリアとエルヴィンは兵舎の前で馬車に乗り込もうとしていた。
「どうしてお見送りに……?」
そんな中、別件の仕事をしているはずのリヴァイが見送りのために駆けつけていた。腕を組み、険しい顔でエルヴィンを見ている。
「来ちゃ悪いか」
「いえ、決してそんなことは」
ないんですけど……。
困惑して隣に立つエルヴィンを見上げる。
彼は顔を逸らし、肩を揺らして笑っていた。
「なに笑ってやがる」
「ふっ、すまない」
「お前一人でも十分だろ。わざわざアリアを連れて行くな」
「特別作戦班に対する興味関心は広がってきている。それにリヴァイ、お前の存在もな。人員を確保するには素晴らしい話題だ」
「それはわかってる。問題はそこじゃねぇ」
リヴァイは顔をしかめたままアリアとエルヴィンが持つカバンを指さした。
「1泊するってところが納得いかない」
そこでようやくアリアも理解した。
リヴァイは心配してくれているのだ。それが嬉しくて、アリアは思わず頬を緩めた。
「部屋は別に取ってある。お前が心配するようなことはなにも起こらないさ」
訓練兵団の訓練地まではかなりの距離があった。昼過ぎからの説明会を終え、そこから帰るとなると本部に戻ってくるのは真夜中になってしまう。それなら1泊したほうがいい。
そういうわけで、アリアとエルヴィンは丸1日兵舎には戻ってこないことになった。
リヴァイの眉間のシワがさらに深まる。
「リヴァイ兵長」
だがエルヴィンの言う通りなにかが起こることはない。
リヴァイとアリアが恋人であることはエルヴィンも知っているし、なにより彼は軽率に手を出すような人ではない。きちんとした信頼と信用があった。
「お仕事、がんばってくださいね」
むん、と両手を握って拳を作る。リヴァイはちいさくため息をつくと腕をほどいて無愛想に頷いた。
「……わかった」
納得はしていないようだがこうしてごね続けるわけにはいかない。そんなこと、リヴァイが一番知っていた。だから頷くしかなかった。
じゃあ行ってきます! と元気よく手を振って、アリアは馬車に乗り込んだ。