第11章 生まれてきてくれてありがとう
だがリヴァイもいい大人だ。そんな子どものようなわがままを口にするわけにはいかなかった。それに、気持ちが重いとアリアに言われてしまってはしばらく立ち直れなくなる。
「優しいですね、リヴァイさん」
そんなことをリヴァイが考えているとはつゆ知らず、アリアは純粋な目でリヴァイを見上げた。静かに逸らす。このことは墓場まで持って行こう。それがいい。
「そうだ! 昨日言いそびれてしまってたんですが……」
そのとき、不意にアリアが言った。大事なことを思い出したのかガバッと起き上がる。つられてリヴァイも上半身を起こした。
「あの、リヴァイさん」
アリアがリヴァイを見る。優しい微笑みをたたえ、リヴァイの両手をそっと握った。
「お誕生日、おめでとうございます。生まれてきてくれて、わたしと出会ってくれて、本当にありがとうございます」
リヴァイはしばらくなにも言わなかった。いや、言えなかったというほうが正しいだろう。言葉を失い、目の前の美しい女性(ひと)の顔を見ていることしかできなかった。
生まれてきてくれてありがとうなんて、初めて言われた。
この存在を心から祝福し、認めてくれた。
それはリヴァイにとってあまりにも衝撃的なことだった。
「リヴァイさん?」
黙り込んでしまったリヴァイを心配そうに覗き込む。握られた手に少し力が込められた。
なにか、言わなければ。なんでもいい。ありがとうの一言を。
「俺は、」
ふと心に浮かんだ言葉があった。
柄にもない言葉だった。だが、どうしてもアリアに聞いてほしかった。
かつて暴力と泥にまみれて生きていた自分が、仲間を失い絶望のふちにいた自分が、この世の何もかもを恨んでいた自分が、今のリヴァイを見ていた。
彼らは生きる意味を探していた。
どうしてこんなところに生まれてしまったのかすらわからなかった。
なんのために、生きているのだろう。
その答えがようやくわかった。
息を吸う。喉が震えて声が溢れる。
「――俺はきっと、お前に会うために生まれてきたんだ」