第3章 正しいと思う方を
人に薄い壁を作る者同士が出会ったらどうなると思いますか? ……正解はなんかギクシャクする。です。
アリアは今、まさにその状態になっていた。
「乗りこなせてはいるんだけど……」
馬術訓練用のグラウンドをグリュックに乗って走るアリアを見ていたイザベルは首を傾げた。
「なーんか違和感があるんだよなぁ……」
アリアはちゃんとグリュックに指示を出している。グリュックもその指示に正確に従っている。だがなにかが……おかしい。
よそよそしいような、薄い壁があるような。
「おれにも乗らせてくれよ!」
ためしに、とイザベルが乗ってみるが、アリアのときと同じようにグリュックとの間に壁があった。
「うーん……」
「グリュックは今まで乗せていた兵士をみんな壁外調査で亡くしたんだって」
訓練を始めて1時間が経っただろうか。
グリュックに水を与えていたアリアは頭を悩ますイザベルに言った。
「だからたぶん、そのせいで人を信用できないんだと思うの。仲良くなってもすぐにいなくなっちゃうから……」
アリアはグリュックを撫で、肩を落とした。
皆、死にたくて死んだわけではない。きっとグリュックもそれを理解しているのだろう。しかしそれでも悲しいものは悲しい。親しくなろうとしないのも当然だ。
「じゃあさ」
悩ましい顔から一転。イザベルはなにか良いことを閃いたように声を出した。
「アリアが次の壁外調査で死ななかったらいいんじゃねーの? そうすりゃグリュックもアリアが自分を見捨てないってわかってくれるだろ!」
「え、えぇ……? それはそうだけど……」
「なんだよ、アリアは壁外調査で死ぬつもりなのか?」
「まさか! もちろんそんなこと考えてないよ。でも、ほら壁外調査で馬との信頼関係がないってちょっと怖いなって思って」
「んー……でもグリュックは乗りこなせてるし。大丈夫なんじゃないか?」
「そ、そんな無責任な……」
だがイザベルの言い分も一理ある。
アリアはもさもさと牧草を頬張るグリュックを見た。