第3章 正しいと思う方を
調査兵団の紋章は自由の翼と呼ばれている。その名の通り、壁外へ自由を求めて行くことからそう呼ばれているそうだ。
立体機動を駆使し、空を舞う姿はたしかに翼が生えているように見えるのだろう。
しかしアリアは今までここまで軽やかに飛ぶ人を見たことがなかった。
「あれが……リヴァイ」
アリアはグリュックを引く手を止めて、彼を見上げた。
リヴァイは立体機動の訓練をしていた。巨人の模型のうなじを削ぐ速さは今まで見てきた兵士の中で1番だった。
右手のブレードの持ち方が逆手だが、ガスの消費は少なく、それでいて速い。うなじを削ぐ威力も申し分ない。
「すごい……」
アリアは小さく呟いた。
翼が生えている、とはああいう飛び方のことを言うのだろう。
目が離せなくなった。
「あんた、あのときの!」
アリアは自分へ投げかけられた明るい声に振り返った。
「あ、あなたは……」
そこにいたのはあの赤毛の少女――イザベルだった。
馬を軽く乗りこなし、アリアに笑いかけていた。
「昨日はほんとにごめんな!」
「ううん! わたしもちゃんと前見てなかったし」
「兄貴すごいだろ?」
イザベルはすとんっと馬から降り、リヴァイのほうを見た。つられてその視線を追うと、彼はすでに着地し、水分補給をしていた。
「2人は兄妹なの?」
兄貴と呼ぶイザベルがリヴァイを見る目には尊敬と誇らしそうな光があった。
気になっていたことを聞くと、イザベルは照れくさそうに鼻をかいた。
「ううん! 兄貴とはそんなんじゃない。兄貴はおれの命を救ってくれたんだ! 兄貴はすっげー強いんだぜ!」
えっへん! と胸を張るイザベル。それを見ているとアリアはなんだか弟のことを思い出した。
「ねぇ、イザベル」
早く乗ってくれ、と言うように馬につつかれるイザベルを見て、アリアは遠慮がちに彼女の名前を呼んだ。
「その……もしよかったら、わたしに馬との接し方を教えてほしいの。先輩から聞いたんだけどイザベルって馬の扱いが上手いんだよね?」
突然のお願いにイザベルはぱちぱちと瞬きをし、すぐにニカッと笑った。
「もちろん!」