第11章 生まれてきてくれてありがとう
⠀鍛え上げられた美しい背中だ。中心辺りに前回の壁外調査のときに負った傷跡がある。アリアが命を懸けて戦った証だ。
「左肩のところに、見えませんか?」
⠀言われるがまま視線を左肩に向けると、初めて見る傷跡があった。なにかの手術跡のようには見えない。
「刺創……?」
「いつできたのかはよく覚えてないんですけど、気づいたらあったんです。すごく……痛々しいでしょう?」
⠀指先で触れる。
「もう痛くはないのか?」
「はい。あ、でも雨が降ると時々痛みます。寝ていたら治るんですけど」
⠀その傷は心臓を狙ってできたかのようだった。
⠀だがギリギリのところで外れている。
(この傷……)
⠀リヴァイの記憶が刺激される。なにかを思い出そうとする。
「リヴァイさん?」
⠀まったく同じところに傷を負った少女をかつて治療してやったことがあった。まだ地下街にいるころだ。養父が姿を消してから数年が経っていた。血と砂にまみれた金色の髪、華奢な肩、すべてを睨みつける青い目。同じ、傷跡。
「げ、幻滅しましたよね……」
⠀アリアの悲しそうな声にリヴァイは物思いから覚めた。
⠀
「いや、違う。ただ……」
⠀7年前、地下街にいたか?
⠀喉まで出た言葉を咄嗟に飲み込んだ。
⠀今聞く話ではない。違う人だった可能性もある。万が一あの少女がアリアだったとしても、もしかしたら思い出すのさえ辛い記憶かもしれない。
「綺麗な背中だ。幻滅なんかするわけねぇだろ」
⠀アリアを後ろから抱き寄せる。肩に額を乗せ、本当だ、と囁いた。くすぐったそうに身を捩ったアリアは安心したように「よかった」と呟いた。
「どう思われるかずっと不安で」
「お前がお前でいてくれるなら、どんな姿でもいい」
⠀それは心の底から思っていることだった。
⠀たとえ彼女の四肢がなくなったとしても愛せる自信があった。