第11章 生まれてきてくれてありがとう
髪を、体を、丁寧に洗う。少しでも綺麗な自分を見てほしくて。
熱い湯が全身を打つ。
アリアは緊張で今にも吐きそうだった。
男の人と付き合うのも初めてで、抱かれるというのも初めてで。リヴァイに認められた嬉しさと、それをはるかに上回る緊張。もし何か失敗をして彼に愛想を尽かされてしまったら。何か不快にさせてしまったら。
アリアは湯船に浸かりながらため息をついた。
逃げ出してしまいたい。鍵をもらったけれど、部屋には行かずに、いつも通りの夜を過ごす。そんなことできるはずがないのに馬鹿げた考えがよぎった。
(それこそリヴァイさんを失望させてしまう)
合鍵を渡してきてくれたときのリヴァイの微笑みを思い出し、アリアはひとり首を振った。
あんな、嬉しくて、愛おしくてたまらないなんて表情をされたら逃げるわけにはいかない。覚悟を決めよう。
勢いよく湯船から上がる。
決まりきった覚悟を抱え、アリアは脱衣所へ向かった。
酒臭さに顔をしかめながらリヴァイは早足で部屋に向かっていた。
予定よりずいぶん遅くなってしまった。日付はとうに越え、自室までの廊下は暗く寒かった。あまりにも遅すぎてアリアが帰ってしまっているかもしれない。それだけは嫌だった。
最後の方はほとんど小走りになり、リヴァイは部屋の扉を開けた。
蝋燭の炎が小さくゆらめいていた。
薄暗い部屋の中を見渡す。ソファの上に黒い影が丸くなっていた。
「アリア?」
そっと名前を呼ぶ。
影がもぞもぞと動く。しかし返事はない。
なるべく音を立てないように近づいて、かぶった毛布の隙間から覗く金髪を見た。やはりアリアだ。
彼女は健やかな寝息を立てて眠っていた。石鹸の良い香りがする。
「アリア」
待っていてくれたのだ。眠くなりながらもちゃんと。
リヴァイは口元がゆるくなるのをどうにも止められなかった。
するりと彼女の頬を撫で、どうしようかと考える。こんなにもぐっすり眠っているアリアを起こすのも忍びない。だが、ここまできてお預けは流石にキツいものがある。
「どうするべきか」