第11章 生まれてきてくれてありがとう
アリアはしばらく呆けていた。リヴァイの言葉がよく理解できなかったのだ。
「わ、たし……?」
「あぁ」
「えっと、わたしはもう、リヴァイさんのものですよ?」
言っていて気恥ずかしくなりながらも、微笑む。
あの日、湖で想いを通わせたときから、アリアはリヴァイのものになったつもりだった。
リヴァイはきゅっと唇を閉じると、ゆっくりと首を横に振った。
「お前が俺に心を寄せてくれていることは知ってる。だが、俺は」
手が強く握りしめられる。
「お前の体も欲しい」
「……へ」
情けない声がアリアの喉からこぼれた。
体。体も、欲しい。からだ……
「かっ、からだ!?」
それはつまりもしかしてもしかするといやでもそんな。
素っ頓狂な声を上げ、ぽぽっと顔を真っ赤に染め上げるアリアに、リヴァイは困ったように眉を下げた。
「嫌か」
キスはしたことがあった。湖で、一度だけ。
あれ以来リヴァイがそういった接触を求めることはなかったし、男性経験が一切ないアリアもそういうものなのだと思って特に何もしてこなかった。
だからだろうか、漠然とリヴァイには性欲がないのだと思っていたのだ。(本人の潔癖気質がその思い込みをさらに加速させていた)
嫌か、と問われて考える。
彼と、いわゆる、そういう行為をすることが。
自分の手のひらがじっとりと汗で湿っていくのを感じた。
早く答えなければ。どこか寂しそうに、リヴァイのまぶたが伏せられていく。はやく、言わないと。
「……嫌じゃ、ない、です」
それは蚊の鳴くような声だった。
耳まで赤くしたアリアはリヴァイから目を逸らしながら、本当に小さな小さな声で言った。だがリヴァイはそれを聞き逃さなかった。
パッと顔が上がる。手を握る力がさらに強くなる。
「本当か」
「……はい」
そういった経験も、知識もない。それでも彼に触れてみたいと思った。
それは今この瞬間に湧いたものではない。おそらくずっと心のどこかにはあって、しかしはしたないからと見て見ぬふりをしてきたのだ。
それが、ようやくわかった。