第11章 生まれてきてくれてありがとう
昼食を食べ終え、午後のトレーニングも一通り終えたあと、アリアはリヴァイの執務室の前に立っていた。この時間ならリヴァイもいるはずだ。
拳を振り上げ、扉を叩く。
静寂。返事はない。
アリアは首を傾げた。
「アリア」
その時横から声が聞こえた。
声の方を見ると、どこかくたびれた様子のリヴァイが早足でこちらに向かってきていた。
「兵長」
「呼び出して悪かった。当日は祝えないからっていろんな奴に捕まっちまった」
「いえ、気にしないでください。リヴァイ兵長は人気者ですからね!」
入団当初は地下街出身ということもあって敬遠されていたが、類まれな立体機動の腕と的確な指揮をすることで評価が上がり、今ではリヴァイ兵長の訓練を受けたい兵士でいっぱいだ。エルドから聞いたが、特別作戦班の新メンバー募集の際にも大勢の立候補があったとか。
「それで、どうかしたんですか?」
リヴァイはポケットから鍵を取り出すとドアを開け、アリアを通した。
「誕生日プレゼントのことだ」
ランプに火を灯して回る。そんな姿を眺めながら、アリアはソファに腰掛けた。
「欲しいものがあったらなんでも言ってください! なんとしてでも明日までに用意しますから!」
具体的な解決策は浮かんでいないが、きっとどうにかできるはずだ。
楽観的に思いながらアリアは力強く言った。
「なんでも、いいのか」
リヴァイはソファには座らず、アリアに背を向けたまま立っていた。マッチ箱を握りしめている。
「はい。わたしに用意できるものなら!」
しばらく静寂の時間が続いた。
その間、リヴァイは微動だにしなかった。ランプの中の蝋燭が揺れ、ジジ、と音を立てる。アリアはその音を聞いていた。
「アリア」
やがてリヴァイが振り向いた。マッチ箱を机に置き、一歩、また一歩とアリアに近づいてくる。顔に影が落ち、アリアからではリヴァイの表情は見えない。
リヴァイはアリアのそばに膝をつき、静かに手を重ねた。冷たい手だった。
「リヴァイ、さん?」
そっと名を呼ぶ。
息を吸う音が聞こえた。
「お前が欲しい」