第11章 生まれてきてくれてありがとう
「……うん、そうだね」
アリアは言った。そこに迷いはなかった。
「ありがとう、ペトラ」
アリアが笑うと、ペトラも笑った。
ずっと言わなければならないと思っていたことを無事に言えて、肩の荷が降りたような気がした。息を吐く。言えてよかった。本当に。
「じゃあシャワー浴びてきますね。また今度、詳しいこと教えてください!」
「ふふ、うん。わかった」
手を振って、ペトラはシャワールームの方に消えた。
ひとり残されたアリアはグッと上半身を伸ばす。
さぁ、髪の毛でも切りに行こうかな。
*
リヴァイは瞬きをした。
今、目の前にいるアリアの姿が一瞬受け入れられなかった。抱えていた書類を一式落としそうになるくらいには衝撃だった。
隣に立つエルヴィンが「おぉ」と感嘆の声を上げる。そこは寒々とした兵舎の廊下だった。
「髪、切ったのか」
たっぷり30秒経ってからリヴァイはようやく言葉を振り絞った。
「はい! どうですか? 似合いますか?」
ちょうど美容室に行った帰りなのか、アリアは兵服ではなくあたたかそうな真っ白のセーターを着ていた。それだけでもずいぶん印象が変わると言うのに、それ以上の変化が彼女の髪にあった。
アリアはリヴァイとエルヴィンに髪型がよく見えるようにくるりと回転してみせる。
胸元まであった長い髪が肩の辺りで綺麗に切り揃えられていた。艶やかで、まっすぐな髪はアリアの動きに合わせて軽やかに揺れる。ふわりとシャンプーのいい香りがした。兵団の中では絶対に嗅がない香りだ。
アリアはリヴァイの反応を伺うように首を軽く横に傾けた。キラキラと期待に満ちた目でリヴァイを見つめる。
「リヴァイ」
いつまで経っても声を出さないリヴァイに痺れを切らしたエルヴィンが囁く。早くなんとか言ってやれ、とその声は言っていた。
あぁ、早く言わないと。似合ってる。とても似合ってる。素敵だ。長い髪もよかったが短いのも雰囲気が変わっていいな。好きだ。
言いたいことは山ほどあるのに何一つ出てこなかった。
エルヴィンに先を越されることだけは嫌なのに。