第11章 生まれてきてくれてありがとう
「アリアさん?」
ハッと息を呑み込み我に返る。長い間鏡の前に座っていたらしい。髪の毛が少し乾いていた。
「ペトラ」
鏡越しにペトラと目が合った。
彼女もシャワーを浴びに来たのか、手にはタオルと着替えを抱えていた。
「大丈夫ですか? なんだかぼーっとしてるみたいでしたけど」
不安そうに顔を覗き込まれ、アリアは慌てて笑った。
「うん、大丈夫! ちょっと考え事してて」
「怪我の具合も平気ですか?」
「おかげさまでね。もうすぐリハビリも終わりそうなの」
「そうなんですね! よかった」
じゃあ私はこれで。とペトラは言い、ロッカーへ向かう。咄嗟にアリアはその手を掴んでいた。
「ペトラ」
思えば、意識を取り戻してから今まで一対一でペトラと話していなかった。見舞いには来てくれていたがいつもオルオと一緒でふたりきりになることなどなかったのだ。
今しかないと思った。
「言わなきゃいけないことがあるの」
ペトラとは恋敵だから。
「わたし、」
「リヴァイ兵長と、お付き合いされてるんですよね?」
言おうとしていた言葉は喉の奥で止まった。
ペトラは困ったような、嬉しそうな、けれどどこか悲しそうな表情をしていた。
「どうして」
「そりゃあわかりますよ。医務室にアリアさんのお見舞いに行くと絶対に兵長がいるんですもん。それにお二人が話してるのを見たら深く考えなくてもわかっちゃいました。女の勘ってやつです」
なんと言うのが正解なのだろう。
ごめんね? 兵長と幸せになるね? いや、絶対に違う。少なくともアリアはそんな薄っぺらい言葉など言いたくなかった。
「もう、アリアさん。そんな顔しないでください」
よほどひどい顔をしていたのだろう。ペトラは笑うとアリアの頬を両手で包んだ。むぎゅっと押しつぶされる。
「おめでとうございます。私、すごく嬉しいです。大好きな人と大好きな人が幸せになってくれて」
「ペトラ……」
「言ってくれたじゃないですか。どっちかが選ばれたらちゃんと祝福して、どっちも選ばれなかったら一緒にお酒を飲もうって」
パッと手を離される。ペトラは赤くなった目元を隠すように拭った。