第11章 生まれてきてくれてありがとう
アリアはもごもごと言葉にならない言葉を口の中で言って、さりげなくリヴァイから距離をとった。恥ずかしすぎる。
「アリア」
「これ以上は勘弁してください」
サッと本で顔をカバーすると、リヴァイは困ったようにアリアの名前を呼んだ。その声音はあまりにも優しくてより一層顔が赤くなるのがわかる。もしかしたら首元まで真っ赤になっているかもしれない。
「悪かった。からかいすぎた。顔を見せてくれ」
「もう少し待ってください」
「……わかった」
リヴァイが目線を逸らす気配がする。テーブルに置いた書類を手に取り、再びそれを見始めたらしい。アリアは少し脱力して、荒ぶる心臓を静めるために深呼吸をした。
大丈夫。落ち着いてきた。
最後に息を吐き出し、アリアは本を下ろした。
「リヴァイさん」
そして咎めるような声を出した。
アリアから目を逸らしていたはずのリヴァイがこっちをじっと見ていたのだ。
「ずっと見てたんですか」
「あぁ」
「騙したんですね」
「悪ぃな」
微塵も反省していない調子で答えられ、アリアは口をつぐんだ。
この顔に、というかリヴァイそのものにアリアは弱かった。大抵のことは許してしまいそうになるくらいに。だが強い心を持たなければ!
「怒りました。すごく。リヴァイさんの嫌いな髪型にしてやります」
本を片手に勢いよく立ち上がる。
ずんずんとドアまで歩き、ドアノブに手をかけた。ちらっと振り返ると、リヴァイは淡い微笑みを口元に残したまま目尻を緩めた。
「どんな髪型でも似合うだろうな。楽しみにしてる」
アリアはなんとか言い返そうとして口を開き、結局何も出てこなかった。何を言っても勝てない。
「また明日!」
どうすればいいのかわからなくなり、アリアは部屋を出た。出る瞬間、堪えきれないようなリヴァイの笑い声が聞こえてきた気がした。