第11章 生まれてきてくれてありがとう
「綺麗、ですか?」
「あぁ。前から思ってた」
「ま、前っていったいいつから?」
「二人で初めて紅茶屋に行った時からだ」
ぱちり、とアリアは目を見開いた。
あの時から? そんな風に思われていたなんて微塵も考えていなかった。
「伸ばしてるのか?」
穏やかな仕草で顔にかかっていた髪を耳にかけられる。明るくなった視界の中、リヴァイは優しい眼差しでアリアを見ていた。
ふと、カーネーションを見たあの夜を思い出す。あの時も、こうやって落ちてきた髪を耳にかけてもらった。少し冷えた指先が耳のふちをかすめ、とてもドキドキしたのを覚えている。
「特に伸ばしてるつもりはありません。ただ切るタイミングを逃しているというか……。それにバレッタもつけていたいですし」
存在を主張するようにバレッタに触れてみせると、リヴァイはわずかに頷いた。
「リヴァイさんは短い髪の方がお好きですか?」
ちょっとした疑問が口をついて出てくる。ただの興味だ。たとえリヴァイが「ショートカットが好きだ」と言ったとしてもその通りにするつもりはなかった。「ショートカットにしないと軽蔑する」とか言われたら考えるが、まさかリヴァイがそんなことを言うはずもない。
リヴァイは少し考えるような沈黙を落とした。
その間も彼の手はアリアの髪に触れていた。
「見てみたいとは思うが、まぁ、短くても長くてもお前がお前ならそれでいい。それ以上は望まない。どんな姿でも愛せる」
ぽ、と頬が熱くなるのがわかった。
今この人は何かとんでもなく恥ずかしいことを言ってのけたのではないだろうか。
「なんか、リヴァイさんって、ものすごく言葉にしてくれますよね。その、あ、愛してるとか」
最後の方はなぜかこっちが恥ずかしくなって尻すぼみになってしまった。
「嫌か?」
「えっ、いや、そんな、そりゃあ好きな人に愛してるって言われて喜ばない人間はいないと思います! わ、わたしは、すごく嬉しいです、けど、」
「けど?」
「い、意外だなぁって思っただけです!」
これ以上喋るともっと恥ずかしくなってしまいそうだ。
慌てて会話を終わらせようとすると、全てを見通すように微笑まれてしまった。