第10章 愛してる
「あのとき、アリアさんたちが来なければ俺はもちろん死んでいましたし、フローラもきっとわけもわからないまま死んでいたと思います」
グンタの瞳に涙の膜が張る。フローラのことを思い出しているのだろう。新兵でありながら、戦場に残った彼女のことを。
「生き残った俺が言えることではありませんが、フローラは、覚悟を決めて死ぬことができた。それは、たぶん、救いだったはずです」
アリアは目を閉じた。
ぶるぶると震えながらも真っ直ぐに背筋を伸ばすフローラの姿はまぶたの裏に焼きついていた。彼女は強い。親友を見殺しにしたわたしなんかよりずっと。
あんなところで死ぬべきじゃなかった。
重く、暗い感情が心を覆う。アリアはしばらく目を閉じたまま身動きしなかった。
「アリアさん、俺、強くなりたいんです」
涙で震えていたグンタの声が不意に力を帯びる。
アリアは目を開けた。彼は拳を握りしめ、強い光を浮かべた瞳でアリアを見ていた。
「もう二度とあんな思いはしたくない。仲間を置いて逃げることなんてしたくない。だから、強くなるんです」
アリアは瞬きをして、そうしてふっと微笑んだ。
「その気持ちがあれば、きっと強くなれるよ」
きっと強く。
言いながら、目を伏せる。
強くなりたくて、死にものぐるいで頑張って、やっと巨人と渡り合えるだけの力を手に入れられたと思っていたのに、結局アリアは仲間を見捨てた。見捨ててしまった。後悔してもしきれない。思い出すだけで身を切るような痛みが蘇る。
アリアはグンタにバレないように深呼吸を繰り返した。
「それで強くなって、特別作戦班に入ります」
「特別作戦班に?」
「はい!」
壁外調査から戻ってきて1週間。グンタはずっとそのことを考えていたのだろう。そう言い切る言葉に迷いはなかった。