第10章 愛してる
「あ、そうだ、アリア」
ふと顔を上げたハンジが思い出したように声を出した。
「リヴァイの部屋で何もなかった?」
「え?」
「しつこい奴だな」
真剣そのものなハンジと、心底迷惑そうな顔をしているリヴァイを見比べる。アリアは軽く笑った。
「もう、ハンジさん。リヴァイさんのことなんだと思ってるんですか。心配するようなことなんて全然──」
はた、とアリアは笑ったままかたまった。
何もなかった? 本当に?
凄まじい勢いで昨夜の記憶が蘇る。何かがアリアの脳みその片隅に引っかかっていたのだ。何か、とんでもない粗相をしてしまったような気が。
「アリア?」
昨夜。リヴァイの部屋。シャワー。包帯。背中。ベッド。
ザ、とアリアの顔から血の気が引いた。
そばで見ていたハンジが仰け反るほどの変化だった。
「リ、リリリヴァイさん、あの、ちが、きのうは」
「待て、アリア。とりあえず落ち着け。たぶん面倒なことになる」
「えっ、なんなの!? やっぱり何かあったの!?!?」
「わた、わたたたわたし、」
声にならない悲鳴をあげてアリアは布団の中に潜り込んだ。
どうしてあんなことをしてしまったんだろう。あんな、あんなはしたないことを。包帯をほどいてもらうまではまだ良かった。だが、問題はそのあとだ。胴体に巻かれた包帯を取ってもらうとき、わたしは、何を。
服の裾を口に咥え、あ、あろうことか、む、胸を!
「ちがう、ちがうんです、いつもはあんなんじゃないんです、あんな、はしたないことしないんです」
「あぁ、もちろんわかってる。だがとりあえずこれ以上何も言うな」
「はしたないこと!? リヴァイ! 私は君を信用していたのに!」
「だからあれは、」
「しかもその後ベッドで……!」
「ベッドで!?」
「あんたらこれ以上騒いだら追い出すぞ!!」
「せ、先生! 包帯を締めすぎです!」
リヴァイは大きなため息をついた。
誰でもいいから助けてくれ、と思いながら。
「あの、リヴァイ兵長」
そしてその救世主はやってきた。