第10章 愛してる
先生が遠くに行ってからリヴァイはため息をついた。
「本当に話し出したら止まらねぇ奴だ」
「ま、まぁ、今回は思いっきりわたしが悪いので……」
面倒くさそうに言うリヴァイにアリアは思わず苦笑する。
「アリア、体の調子はどう? 全治どれくらいになりそうとか聞いてる?」
ハンジが近くにあった椅子に座り、言った。
アリアは1週間ぶりにハンジの顔を真っ直ぐに見ることができた。
「今は鎮痛剤が効いていて痛みはそれほどありません。骨がくっつくのがだいたい4週間か5週間くらいかかるらしくて……この冬の間になんとか治したいです」
ハンジはアリアの言葉に心の底から安堵したようだった。
手を伸ばし、アリアの手を強く握る。あたたかい手だ。アリアは何かを言おうとして口を開け、だが何も言えなかった。
「ご心配をおかけして申しわけありません」
「……ほんとだよ。死にかけの君が補給地点に来て、ぶっ倒れて、1週間眠り続けたと思ったら急にどこにもいなくなるんだから」
長い息を吐き出す。ハンジは項垂れ、アリアの手に額を当てた。
「私がどれだけ心配したと」
アリアは困ったように眉を下げた。
「ごめんなさい」
「エルヴィンも、めちゃくちゃ心配してたんだよ」
「……エルヴィン団長が?」
一瞬、アリアの喉が詰まる。咳払いをして誤魔化す。
1週間ぶりに目覚めたアリアには考えなくてはいけないことがたくさんあった。抱えきれないほどたくさん。
「あんなに動揺してるエルヴィンは見たことないってくらいね。あとで来ると思う」
「そう、ですか」
考えをまとめてからエルヴィンとは話さなくてはいけない。
拗ねたようなハンジの声を聞きながらそんなことを思う。
あの時はほとんど八つ当たり的な態度をとってしまった。その果てに、アリアはエルヴィンに剣を向けた。許されざることだ。
(……謝らなきゃ)
エルヴィンと顔を合わせるのは気まずいが、ここで先延ばしにするべきではない。アリアは静かに心を決めた。