第10章 愛してる
「何があったかは詳しく聞かないけど、いい? きみの体はボロボロなんだ。腕と肋骨の骨がポッキリ折れて、おまけに胃が半分潰れてしまってる。そんな体で医務室を抜け出すなんて正気の沙汰じゃない。もうここに勤めて何年も経つけどそんな怪我で外を歩き回ったのはきみが初めてだ。誇るんじゃない。褒めてないからね? つい一昨日まできみは死の淵を歩いてたんだ。ちょっとでもバランスを崩して転がり落ちたら一生目覚めない、そんな淵にね。それなのにきみは馬に乗って、ほんとに、何もなかったのは奇跡だ。奇跡としか言いようがない。これに懲りたら今後はぜっっったいに安静にしておくこと。いいね? わかった? ばか、返事するんじゃない。声を出したら怪我に響くだろう」
「す、すみません」
「返事はしない」
「はい」
「こら」
アリアは言葉を飲み込み、眉を下げた。
ハンジたちが食堂を出て医務室に向かっていると同時刻、アリアは医務室の先生にこってりと絞られていた。
リヴァイの部屋から戻ってきたアリアを見た先生は今にも卒倒しそうなほど顔面蒼白で、「はやく、寝て」と息も絶え絶えに言った。
そして怪我が悪化していないことを確認すると、こんこんとひたすら説教を始めてしまった。ベッドに横になったアリアはそれを聞くしかない。反論の余地はどこにもない。
「めっちゃ説教されてる……」
その時、医務室にハンジとリヴァイが入ってきた。
先生は振り返り、リヴァイを見つけるとキュッと眉を吊り上げた。
「リヴァイ、きみにも言いたいことが山ほどあるんだ。なんでよりによってこの重体患者を自分の部屋に連れて行くんだい? ボクを叩き起こしてくれればよかったんだ。真夜中に起こされたことは何度もある。家に帰りたいとか、怪我が痛むとか。それがボクの仕事なんだから何も遠慮する必要はどこにも──おいリヴァイ、聞いてるのか? え? 何? ボクの話は長い? 仕方がないだろ。事が事なんだから」
「先生〜! 診察お願いします!」
先生は看護師の呼ぶ声に口を閉じた。
非難がましい目をリヴァイとアリアに向け、しかしそれ以上何も言わずに背を向けた。