第3章 正しいと思う方を
「わっ! す、すみません!」
咄嗟に謝ると、ぶつかってしまった相手と目が合った。
「や、こっちこそ悪ぃな!」
大きくよく動きそうな目をした少女だった。
赤毛を2つに結び、まだ幼さの残る顔に、明るい目には生意気そうな光が浮かんでいる。
「イザベル。よそ見するな」
「ごめんって兄貴!」
「ぶつかってしまってすみません」
少女の前を歩いていた男の1人が少女を咎めるような声を出す。もう1人の青年が人の良さそうな頬笑みを浮かべてアリアに頭を下げた。
「あ、いえ、よそ見をしていたのはこちらですし……」
イザベル、と呼ばれた少女はすぐに男に駆け寄る。黒髪の男の三白眼がアリアを射抜いた。
その迫力に思わず身が固まる。
「では失礼します」
居心地の悪さを誤魔化すようにアリアは慌てて言い、先で待っているオリヴィアを追いかけた。
「大丈夫?」
「う、うん。よそ見してたのはわたしだし」
「いや、そうじゃなくて……」
ちらりとオリヴィアは歩いていく3人の後ろ姿に嫌悪感のある視線を投げかけた。
オリヴィアのそんな目を見るのは初めてだった。
「あの3人、地下街にいたんだって」
「地下街? 地下街ってあの?」
アリアは素っ頓狂な声を上げるのを急いで我慢し、3人を振り返った。
地下街はウォール・シーナの地下に造られた遊興街。元々は巨人の侵攻から避難するための場所だったが、現在では様々な犯罪が蔓延る危険地帯だ。
地下街から地上へ来るためには多額の金が必要だとか。
「地下街の人がなんで調査兵団なんかに?」
地下街の人間が地上に。しかも調査兵団に入るなんて。
「エルヴィン分隊長が直々にスカウトしに行ったんですって。なんでもあの黒髪の男は立体機動が兵士並みに上手いらしいわよ」
「エルヴィン分隊長が……」
そんな話聞いたことなかったな。
アリアはしばらく3人を見ていたが、やがて前を向いて歩き出した。
三白眼の男の顔がどうしても頭から離れない。