第3章 正しいと思う方を
「それでね、そのときの巨人が――」
アリアは大量の書類を抱えて歩くオリヴィアに相槌を打ちながら兵舎の廊下を歩いていた。
アリアたちが調査兵団に入団して1週間が経った。
「オリヴィアってそんなに巨人のこと好きだったっけ?」
これからハンジ班の執務室へ持っていくのであろう書類は今日の実験のことばかり。そしてそれを運ぶオリヴィアも巨人の話ばかりしている。
そのことに思わず突っ込むと、オリヴィアは目を瞬かせたあと頬を赤くした。
「じ、実はハンジさんとの話がとってもおもしろくて……。巨人って本当に謎が多いのよ! でもその謎を解明していくハンジ班のみなさんの熱意は素晴らしいわ!」
ハンジ班に配属されたときは少し嫌そうな顔をしていたのに。
ちょっと驚きながらもアリアは笑った。
オリヴィアが幸せならそれでいい。
「それで、アリアはどんな感じ? エルヴィン分隊長は」
「うーん……」
話を振られ、アリアは顎に手を当てて考える。
「分隊のみなさんはとてもいい人ばかりだよ。癖の強い人もいるけど。でもやっぱり毎日刺激的で楽しいかな」
兄貴分で頼れるボックが書類の束を持ってなにもないところでずっこけたのには驚いた。床にバナナの皮があったと言っていたが、だれも執務室でバナナを食べた者はいない。
ハツラツとして豪快なランゲが意外と涙もろいことを知ったのは昨日のことだ。犬と人間の感動話に弱いらしい。
いつもオドオドして、眉が8の字のナスヴェッターが立体機動で軽やかに空を舞っているのを見たときは素直に感動した。
猫背なナスヴェッターも立体機動のときだけは背筋が伸び、髪に隠れていた目元もあらわになっていた。
「あ、でもグリュックとはなかなか仲良くなれないなぁ……」
「グリュックってアリアの相棒の馬?」
「うん。毎日走るようにしてるんだけど薄い壁を感じる」
「ふふっ、訓練兵のときもそんなこと言ってたわね」
「まーね」
アリアが悩ましげに肩を落としたとき、前を歩いていた3人組の1人とドンッと肩がぶつかった。