第10章 愛してる
アリアを医務室まで送り、リヴァイとハンジは食堂にいた。
向かい合って座り、リヴァイは朝食兼昼食を、ハンジは熱い紅茶を飲んでいた。
「……で、ずぶ濡れになったアリアを部屋に入れた、と。まぁ、それなら仕方ないのかな? いや、それよりもアリアが死のうとしてたか」
椅子の背もたれに体重を預ける。ギィ、と軋む音がした。
とりあえずある程度のことをハンジに話し終えたリヴァイは、少し冷めたスープを口に運ぶ。
「あぁ」
「それで君が救ってくれたんだ」
「ああ」
「……ありがとう」
紅茶の入ったマグカップを両手で包み込み、ハンジは言った。
「何がだ?」
「あの子を救ってくれてだよ。彼女が初めて壁外調査に行った時、あの子は親友と同期を一気に亡くした。立ち直るまでの間、アリアは死へ向かっていたんだ。私はそれを近くで見ていながら何もできなかった。私はまた、何もできないままあの子を失うところだった」
リヴァイは黙ったまま話を聞いていた。
その壁外調査のことはリヴァイにも記憶に残っている。地下街で共に過ごした仲間を失ったのもその時だった。そしてアリアと出会ったのも。
「結局はエルヴィンがあの子を救ってくれたんだ。どんなことを言ったのかは知らないけどね」
それが、君の選ぶ正しい未来なのか?
リヴァイの脳裏にエルヴィンの言葉が響く。
それはエルヴィンがアリアに向かって発した言葉だった。それを聞いた瞬間、アリアは抵抗をやめた。
華奢な肩を震わせながら泣くアリアの後ろ姿をよく覚えている。
なぜ、急にそんなことを思い出すのだろうか。
「はぁ〜〜〜」
ハンジの大きなため息で物思いから覚める。
「でもさぁ、リヴァイ。いくら仕方なかったとはいえ、付き合ってない相手を夜中に部屋に招いてシャワー浴びさせるのはさすがにどうかと思うよ」
心から諭すようなハンジの声を聞きながら、リヴァイはパンを咀嚼した。
無表情でハンジを見る。もぐもぐと口を動かす。時間をかけてパンを食べる。
「……え、なにその沈黙。意味ありげすぎない? まさか、」
パンを飲み込む。
「やっっっっとか!!?」
ハンジは叫んだ。ものすごい叫びだった。